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■野生シジュウカラガンの羽数回復事業■
平成19年6月1日更新

 絶滅の危機にあるシジュウカラガンの羽数回復と渡りの復元を目指した取り組みが、仙台市八木山動物公園・ ロシア科学アカデミーカムチャッカ太平洋地理学研究所(旧 生態学研究所、以下 ロシア研究所)・日本雁を保護する会(以下 雁を保護する会)の共同事業として続けられています。


はじめに

 シジュウカラガンはカナダガンの一亜種(*1)で、かつてはアリューシャン列島で繁殖し北米西海岸で越冬するものと、千島列島で繁殖し日本で越冬するものがいました。しかし、20世紀初めに毛皮を得る目的で繁殖地の島々にキツネが放されたため、その影響で生息数が激減し、一時は絶滅したものと見られていました。幸い1962年にアリューシャン列島の一部で奇跡的に生存していることが確認され、その後のアメリカ合衆国政府の手厚い保護と増殖作戦によって、アリューシャン列島の個体群は絶滅の危機を脱するところまで羽数を回復しています。これに対して、日本では1935年頃まで宮城県の黒川郡、多賀城市、そして仙台市内でも数百羽の群れが越冬していましたが、その後渡来数が激減し、事業開始以前までは宮城県北部の伊豆沼周辺でマガンの群れの中に数羽が見られる程度となっていました。


野生シジュウカラガンの羽数を回復するために

 「日本でも合衆国と同じように野生シジュウカラガンの羽数を回復させ、その渡りを復元できないものか?」。1980年、八木山動物公園は雁を保護する会と共同で「極東地域の野生シジュウカラガンの羽数回復計画」を始めました。1983年には、合衆国内務省の魚類・野生生物保護局パタクセント野生生物研究所からシジュウカラガン9羽が種鳥として提供され、本格的な事業が開始されたのでした。


飼育と繁殖

ガン生態園


シジュウカラガンの親子

 シジュウカラガンは八木山動物公園で順調に繁殖を続けており、現在、約40羽が園内の「ガン生態園」で飼育展示されています。毎年、年が明けると生態園ではシジュウカラガンのオスの声が高くなってきます。

 2月中旬から3月になると、ペアのオスとメスが仲良く向かい合って鳴く姿が目立つようになります。4月に入ると巣を作るための小屋にペアで出入りし始め、やがて求愛行動も見られるようになります。4月中旬から産卵が始まり、ほとんどのペアは5月中旬くらいまでに産卵を終えて卵をあたためます。

 卵をあたためるのはメスだけがおこない、オスは小屋の外で警戒に当たります。卵は乳白色をしており、だいたい一日おきに4〜10個産卵します。最終卵を産む前日くらいから卵をあたため始め、最終卵を産んだ日から数えて26〜28日目で孵化(*2)します。生まれたひなは体重70〜80g前後で、頭から背にかけては暗褐色、顔から腹にかけては黄色味がかっています。生後1か月を過ぎると、ひなは全体に黒っぽくなり風切羽(*3)も伸びてきます。生後2か月で、シジュウカラガンの特徴である頬の白い部分がはっきりしてきます。3か月もするとひなたちの体は親とほぼ同じ大きさになり、ところ狭しと、放飼場内を飛び回るようになります。


越冬地放鳥による渡り復元の試み

 宮城県北部の伊豆沼周辺には、越冬するマガンの群れに混じって数羽のシジュウカラガンが渡って来ていました。そこで、八木山動物公園生まれのシジュウカラガンをこのマガンの群れの中に放し、ロシア極東地域へ渡らせるという試みを1985年の秋から行いました。この「越冬地放鳥による渡りの復元」は1985年から1991年までの7年間に37羽を放鳥しました。このうち、11羽は渡りをせずに宮城県内に残り、捕獲されて八木山動物公園に戻ってきました。24羽は行方不明となり、わずかに2羽が北に飛んでいったと推定されましたが、それも翌年以後は行方不明となってしまいました。このように越冬地での放鳥実験では十分な成果が見られませんでした。

 その後、日露関係が急速に改善され、1993年3月モスクワで開催された日露渡り鳥条約専門家会議において、ロシア側からも極東地域の野生シジュウカラガンの羽数回復計画が提案され、同条約に基づく二国間の共同事業として承認されるなど、シジュウカラガンがかつて繁殖していた北部千島列島での事業展開を推進する環境が整いました。そこで、八木山動物公園はかねてからガン類の飼育技術や渡りについての情報交換を行っていたロシア研究所のゲラシモフ博士のグループと共同でこの事業を推進し、シジュウカラガンの繁殖地放鳥による羽数の回復と渡りの復元を目指すことになりました。


繁殖地放鳥の方法と実験放鳥

エカルマ島


放鳥の様子

 ロシア研究所付属のカムチャッカにある繁殖施設で孵化した幼い鳥を中心とした群れを大型ヘリコプターで北部千島列島のエカルマ島に運び放鳥するという方法です。

 そのために、1994年から2003年までの間に八木山動物公園からロシア研究所に62羽のシジュウカラガンを種鳥として送り、カムチャッカの繁殖施設で増殖させています。また1995年には、八木山で得られた有精卵(*4)6個をカムチャッカまで運び、人工で孵化させる技術指導も行いました。卵の輸送は成鳥を運ぶのに比べて、一度にたくさんの個体を運べる利点があるので、将来のために方法を確立しておきたかったのです。併せて1995年からは、かつてシジュウカラガンが繁殖していた北部千島列島のエカルマ島の環境調査と同島での放鳥を開始しました。エカルマ島は植生が豊かで、ガンの食べ物となりそうな植物も多く、身を隠し、巣を作るのに好都合な背の高い茂みも広がっていました。また天敵のいる可能性が極めて低いこともわかり、シジュウカラガンの繁殖地として十分利用できそうです。

 1995年16羽、1996年14羽(道案内としてオオヒシクイ1羽を同時放鳥)、1997年33羽、1998年28羽、1999年16羽と2000年12羽(道案内としてサカツラガン3羽を同時放鳥)の合計119羽のシジュウカラガンを同島で実験的に放鳥しました。


エカルマ島からのシジュウカラガンの渡来と本格放鳥

エカルマ島から渡来したNo.063、No.226、No.061(左から)1997年12月31日宮城県小牛田町北浦の水田にて「雁を保護する会」笠原啓一氏撮影


No.85、No.57、No.45、No.33(左から)2006年1月16日 栃木県の戸田調整池にて日本野鳥の会栃木県支部刑部節氏撮影


宮城県に再飛来した5羽
2006年12月9日 大崎市蕪栗沼近くにて「日本雁を保護する会」瓜生篤氏撮影

 1997年に放鳥された33羽のうちの4羽と1999年に放鳥された16羽のうちの1羽が日本に越冬のため渡って来ました。1997年の3羽は、1997年12月30日宮城県古川市内の水田でヒシクイの群れと行動を共にしているところを発見され、ついで1998年1月6日には北海道静内町の静内川で1羽が発見されました。更に、1999年の1羽が、2000年1月5日熊本県本渡市本渡町広瀬の休耕田にいるところを発見されました。

 これは、「繁殖地から越冬地への渡り」の成功例で、本事業にとって極めて大きな成果といえます。1998年3月上旬、4羽のシジュウカラガンが北に飛んでいったのが確認され、エカルマ島へ戻ったことが期待されました。5羽は全て2歳未満の個体でした。

 この結果を受けて、渡来率が高い2歳未満を中心とした50羽前後の群れを、5年間(2002年〜2006年)本格的に放鳥し、複数の群れでの日本への渡来を実現させることにしました。

 2002年70羽(2歳未満51羽を含む)、2003年50羽(2歳未満44羽を含む)、2004年50羽(2歳未満28羽を含む)と2005年50羽(2歳未満43羽を含む)放鳥。2006年には繁殖適齢個体37羽を産卵前の5月に、2歳未満50羽を9月に放鳥しました。

 その結果、2002年に放鳥したうちの1羽が北海道の袋地沼を経由して宮城県の伊豆沼付近の水田に、もう1羽が千葉県の印旛沼付近の草地に越冬のために渡って来ました。2羽は1歳未満の個体でした。

 また、2005年に放鳥したうちの3羽が宮城県登米市豊里町赤生津の水田に、2羽が宮城県加美郡加美町上狼塚の水田に、1羽が埼玉県さいたま市の彩湖に、1羽がさいたま市の荒川に、更に4羽が栃木県那須塩原市の戸田調整池に越冬のために渡って来ました。2005年は50羽のうちの11羽渡来というこれまでにない高い渡来率でした。11羽は全て1歳未満の個体でした。

 2006年の冬には11羽のうちの7羽が宮城県大崎市の蕪栗沼付近の水田に再渡来しました。これらの7羽は人の手を借りずに自然界で生息でき、完全な渡りを学習しました。また、7羽のうちの2羽は2006年の9月に放鳥した4羽と2006年5月に放鳥した37羽のうちの2羽を連れて渡って来ました。更に、50羽のうちの1羽が37羽のうちの2羽と一緒に山形県の酒田市スワンパーク付近の水田に渡って来ました。全体で、3グループと岩手県花巻市に渡来した50羽のうちの1羽を含めて17羽が2006年の冬に渡って来ました。これらの結果から、再渡来個体と2006年に異なった時期に放鳥した個体が、エカルマ島で群れになっていたと考えられます。


エカルマ島における日本渡来個体の帰還調査

 1998年からは日本に渡って来たシジュウカラガンがエカルマ島に戻っているかどうかを調査しました。未開の島なので、調査は困難を極め、1998年には生活のあとすら発見出来ませんでした。しかし、1999年と2000年にはシジュウカラガンが食べたと思われる草のあとを数個所発見しました。


希少な動物の保護・保全の重要性

 シジュウカラガンの放鳥個体を含めた日本への渡来は、1995年の放鳥開始後、着実に増加しています。

 私たちは、この事業において一度失われた自然の営みを復元することの難しさを、身をもって体験しています。動物公園という人工環境のもとでできる「種の保存」ばかりでなく、「野生への復帰」という積極的な取り組みを進めていくことは、動物公園の社会的役割のひとつだと私たちは考えています。こうした活動を通じて「野生生物や自然環境について、多くの人たちの関心を呼び起こしたい」と思います。いつの日か再び、仙台の空にシジュウカラガンの飛ぶ姿が見られるよう、皆さんのご理解とご支援をどうぞよろしくお願いいたします。


亜種(*1)   生物分類学上の一階級。種の下位。
孵化(*2) 卵がかえること。また、子をかえすこと。
風切羽(*3)  鳥の両翼後縁に並ぶ大形の羽。飛ぶための羽。
有精卵(*4) 受精している卵。

平成18年3月17日掲載 放鳥したシジュウカラガンが越冬のため日本に来ました(続々報)
平成18年1月18日掲載 放鳥したシジュウカラガンが越冬のため日本に来ました(続報)
平成18年1月4日掲載 放鳥したシジュウカラガンが越冬のため日本に来ました

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