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更新日:2024年4月12日

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新店オープンを通じて組織体制強化を実現!|株式会社がほんず

仙台市内で飲食業を営む株式会社がほんず(仙台市宮城野区)では、コロナ禍で売上が激減し債務超過に陥りました。経営再建に向け、新規事業として催事出店やオンライン販売にも取り組みましたが、思うように収益は回復しませんでした。そうした中、JR仙台駅1階に新設される商業施設への出店の打診があり、新店に業績回復の望みをかけることを決断。オープンに向け、限られた人員・資金など経営資源を最大限活用するため、組織力の強化を目指し、プロフェッショナル人材の清水貴之さん(株式会社million)の支援を受けました。

 

お話を伺った方

株式会社がほんず

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代表取締役 長澤洋一さん

 

本プロジェクトの支援者(プロフェッショナル人材)

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清水貴之さん(株式会社million代表)

 

業績回復と新店開業のための組織強化

―当初の課題や目標を教えてください。

長澤代表(以下、同):

当社では、青葉区国分町に私の故郷である青森をコンセプトとした居酒屋宵宮がほんず(以下「がほんず」)と、宮城野区中野に「仙台牛たん湊の小十郎」の2店舗を経営していました。新型コロナウイルス感染症の影響で経営が苦しくなり、状況を打開するため青森の物産や牛タンなどのオンライン販売や催事への出店を行いましたが、思うように収益を上げられませんでした。

そのような中、JR仙台駅西口1階tekuteせんだいに新設されるtekute diningに「がほんず」として出店の打診をいただきました。コロナ禍の影響で債務超過に陥っていた当社の財務状況を鑑みると、新規出店は無謀と思われる話でしたが、金融機関の担当の方と相談し、再起を図る最後のチャンスとして仙台駅への出店に賭けてみることにしました。

既存の2店舗を運営しながらの新店出店は現状の体制では難しいと判断し、国分町の店舗は令和5年3月に閉店しました。その後、金融機関の担当の方から、新店出店に向けて社内体制強化が必要とアドバイスを受けました。そして、そのための支援制度として、仙台市のプロフェッショナル人材活用事業を紹介いただき、応募して清水さんにお世話になることになりました。また、これまでは個人事業主として経営してきましたが、JR東日本との出店契約に際して、法人格を求められましたので、法人化のためにも組織力向上が課題でした。

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令和6年3月に仙台駅「tekute dining」内にオープンした「青森屋がほんず」

 

―今回の支援で初めに取り組んだことは何でしたか。

新店出店に向けて組織の土台作りや体制強化を図るため、まずは事業面と人材面での経営資源の洗い出しを行いました。当時は、飲食、EC、催事の3つ事業を行っていましたが、まずEC事業からの撤退を決めました。EC事業の売上は伸びてきたものの、収益が上がるまで一定期間がかかることと、限られた社員の適材適所とパフォーマンス最大化を図るためには、経験を積んだ飲食事業に集中すべきという判断です。

次に、コロナ禍でがむしゃらに頑張ってきた催事事業は、仙台駅への新店出店にその経験を活かせると考え、続行することにしました。飲食事業に関しては、幸いにも、コロナの5類感染症の移行後、「仙台牛たん湊の小十郎」の業績が好転したので、社員は飲食と催事の営業に注力し、私は新店の出店計画に集中することにしました。

 

「何のための事業なのか」原点に立ち返る

―今回の課題であった組織強化に向けて、プロ人材からどのような支援がありましたか。

最初に、清水さんから「皆さんは何のために事業をしていますか?」と聞かれました。私と社員は、「お客さんの笑顔のために事業をしています」と答えたのですが、清水さんからは、「お客さんの笑顔のためだけであれば、商材は青森の食材や牛タンでなくてもいいのでは?」「なぜ青森、なぜ牛タンを扱っているのですか?」と矢継ぎ早に問いかけられました。

そこで改めて、自分たちのビジネスについて、ぐっと掘り下げ、一番初めの店を始めたところまで戻って考えました。もともと私が「がほんず」を開店したのは、古里の青森で当たり前に食べていたものを仙台の人は知らない、こんなにおいしいのだから伝えたい、その思いで商売をしてきました。そして牛タンの店は、第二の故郷である仙台の名物に特化した飲食店を作りたかった。

そうしたことを清水さんに話したら、「長澤さんは、東北のご当地の魅力を広く伝えたいのですね」とまとめてくださり、「そうだったのか!」と(笑)。ストンと腑に落ちました。

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支援前まで当社の経営理念は「お客さんの笑顔のため」でしたが、清水さんからの問い掛けをきっかけに、実は、ご当地の食の魅力を広めていくことは、お客さんの笑顔だけでなく、生産者さんの笑顔にもつながることに気づきました。

そして、私たちの生まれ育った土地の食を、全国の人においしいと思ってもらうことで生まれるお客さんや生産者さんたちの笑顔は、私たちの笑顔にもつながる。そうした根本的なところまで、1カ月くらい社員と議論を重ねながら、「お客さんの笑顔」、「生産者さんの笑顔」、そして「社員の笑顔」、この3つを当社の企業理念として社員と共有することができました。これも清水さんからの愛ある質問攻めのおかげです。

 

そうした話し合いは、実際の店づくりにどう反映されましたか。

金融機関の融資を受けるために作成した事業計画書を、社員と一緒に作り直すことにしました。当社の企業理念を具体化するため、新店舗では、何を打ち出していくのか、店で一緒に働くスタッフにはどういう人材を求めるか、メニューは本当にこれでいいのかなど、とことん話し合いを重ねました。

また、これまで食材を提供いただいていた青森の生産者さんにも、改めて、どんな思いでつくられているのか、直接話を伺う必要があると考えました。生産者さんのところに出向いて行き、どんな思いでつくられているのか、それぞれのこだわりや、どう食べるのが一番美味しいのかなどをヒアリングして、新店でそれをしっかり具現化できるように、店のコンセプトやメニューに落とし込みました。

 

―催事のために全国を飛び回りながら、青森の生産者さんのところにも足繁く通われ、ほとんど仙台にいらっしゃらなかった時期もありましたね。

はい。実は、食材の生産者さんだけでなく、ねぶた絵師さんのところにも伺ってきました。もともと店内装飾にはねぶた絵を用いる予定でしたが、当初は、ねぶた絵であれば何でもいいと思っていました。それが、清水さんからの支援を通じて、お客さんに青森の魅力を伝えるには、それだけでは足りない、青森には、「ねぶた」といっても、「青森ねぶた」と「弘前ねぷた」があり、それぞれ特徴が異なります。店全体から青森を感じてもらいたいと考え、青森に赴き、こちらの思いと店のコンセプトを直接お伝えしました。そうしたら、絵師の方同士が、それならこの絵柄が良いのでは、とか、互いの絵柄を考慮して色調や背景はこうしたらよいのでは、とすり合わせをして、この店のために思いを込めて描いてくださりました。本当に素晴らしい仕上がりで、大変感謝しています。清水さんと出会わなければ、ここまでの店づくりはできなかったと思います。

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経営者が変われば社員が変わる

―最初の国分町の店の立ち上げ時との違いはありましたか。

当時は私が一人で全部やりました。社員がやろうとしても「いいよ、僕がやるから」と、そのほうが早いですから。でも今回は清水さんに「社長が何でもやってはいてはだめ」とはっきり言われました。「社員が仕事ができないのではなく、あなたがそうさせているんです。困ったときだけ出ていってください」と。実際、私が一人で動き回っている時は、私と社員の間に温度差があったと思います。

 

―清水さんの支援を受けて、社員の方の意識も変化しましたか。

社員と一緒に経営理念を改めて作り直し、当社のミッションやビジョンなどをブラッシュアップしていくうちに、社員一人ひとりの目の色が本当に変わりました。青森に対する使命感のような思いを、みんな自分ごとにしてくれた。

 最初のうちは、社員は清水さんから出された課題に対して、忙しさに追われて期日までにできないことも多かったんです。それが途中から「清水さん、今こういう状況なので、ここをどうしたらよいか相談させてください」というように、自分たちで問題を見つけて積極的に連絡を取り始めました。ものすごく変わりました。

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―その他に今回の店づくりを通じて取り組んだことはありますか。

清水さんの支援を受けて、スタッフ用のルールブックやレシピ帳、接客マニュアル、チェック表など、初めてアルバイトで店に入った人でも、それさえ見れば動けるというツールを制作しました。食材や備品の在庫管理もこれまで大雑把な管理しかしていませんでしたが、全部細かくルールを決めました。

属人的な作業を減らし、誰でも同じパフォーマンスを発揮できるようにするためには必要なことで、大変ではありましたが、ここを頑張れば自分がいなくても店が回るわけですね。組織を強くするということは、こういうことなんだ、と実感しました。

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組織作りの肝は「思いの共有」

―新店オープンに向けたクラウドファンディングにも挑戦されましたね。

tekute diningの開業が当初の予定より遅くなり、資材などの高騰もあり工事予算が上振れし、資金的には厳しい状況でした。清水さんがクラウドファンディング(以下CF)や銀行からの再融資などいくつかの手段を提案してくださり、この中からどれを選びますか?と。

調べてみると、CFなら新店舗の宣伝にもなり、青森の食材の魅力や生産者の思いを伝えることもできる。「これにします!」と言うとすぐに動いてくださり、返礼品の設定のしかたや、思いの伝わる文章の書き方などいろいろ助言してもらいました。

驚いたのは、お客さんだけでなく、生産者の方々も応援してくれたことです。当初の目標額100万円に対して、250万円のご支援が集まりました。オープン前にファンづくりができたことも、大きな成果だったと思います。

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新店にはCF支援者の名前が並ぶ

―飲食事業以外にも何か変化はありましたか。

催事での販売のやり方が自然と変わりました。全国の百貨店の催事などで、例えば牛タンを売る際、以前は単に「仙台から来ました、牛タン美味しいですよ、買っていってください」と呼び掛けていましたが、今は、「売りたい」より「知ってほしい」という気持ちが自然に前に出る。

例えば、「仙台の牛タン屋さんでは、南蛮味噌と一緒に食べるんですよ、仙台名物を、こうやって楽しんでください」と説明するようになりました。するとコミュニケーションが生まれて、お客さんの動きも変わりました。牛タンを買った人が、「昨日牛タンを食べて美味しかったので、一緒にお勧めしてくれた南蛮味噌も食べてみたい」と翌日わざわざ来てくれたり。「仙台ではこうやって食べているんです」という、そのストーリーが心に残るみたいですね。中には、沖縄の催事に出店した際に買っていただいたお客さんが、仙台のお店まで来ていただいたこともありました。

「何のために仕事をするのか」という目的意識が明確になったことで、自然とお客様からも違って見えるのだと思います。おかげさまで催事はずっと好調です。

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―プロ人材の支援を振り返っていかがでしたか。

組織作りの支援というと、勉強会を開いてコンサルタントの講義を聞くというイメージでしたが、実際にはまったく違いました。今回の支援で最も印象的だったことは、スタート地点に立ち返って、みんなで思いを共有したこと。強い組織にするために、お金を出してスキルの高い人を雇うという選択肢もあるかもしれませんが、今までの仲間と一緒にこれからもやりたいと思うなら、ケンカしてでもゼロからもう一度、一緒に思いを共有すべきなんですね。組織作りの肝がそこにあることを実感しました。

清水さんは手取り足取り教えるというより、「考えさせ、気づかせる人」。ロードマップを示してくれるけれど、「あとは、とことん考えてください、決めるのは、皆さんです」と。そうした支援に必死で考え、何とかくらいついていった、という感じです。

今から振り返ってみれば、私たちがこうした組織にしたい、こんな店づくりをしたい、というイメージを具体化していく上で、清水さんには、初めからやるべきことは全て見えていたのだと思います。でも、それを私たち自身で考え、決めていけるようにしてくれました。そして、私たちがこうしたい、と決めたことを実現するために、アドバイスだけでなく、手も動かしながら支援してくれました。結果、組織として大きく成長し、自分たちの思いを反映した新店をつくることができました。本当に感謝しています。

 

最後に、今後に向けて一言いただけますか。

これまでの取り組みを通じて、現場を安心して任せられる社員も育ってきました。3月28日には、いよいよ「青森屋がほんず」がオープンします。まずは社員・アルバイト一丸となって、この店をしっかり軌道に乗せていきたいです。そして、仙台を訪れた方々に、この店をきっかけにして、青森や東北の魅力を伝えていきたいです。

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(令和6年3月取材)

 

他の事例は事例紹介のページよりご覧ください。

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