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更新日:2024年4月10日

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働く意義を生み出す役職定年・選択定年制度|株式会社東栄科学産業

株式会社東栄科学産業(太白区)は、昭和57年に創業し、試験器・計測器や各種装置などの製造販売を行っています。創業時から働き続けてきた社員も多く、3年程前に定年を60歳から65歳に延長しましたが、65歳までの社員の働き方をどう位置づけるのかが課題として残っていました。そこで、60歳を過ぎた社員一人ひとりに寄り添い、定年まで意欲的に働いてもらえる仕組みを導入するため、人事制度のプロ人材の佐藤政人さんからの支援を求めました。支援期間中の取り組みを振り返っていただきます。

お話をお伺いした方

株式会社東栄科学産業

東栄1.

代表取締役 山城智万さん
総務部総務課長 髙橋英之さん

 

プロフェッショナル人材

東栄2.

経営コンサルタント 佐藤政人さん(オフィスさとう)

 

定年延長の5年、いかにやりがいを醸成するか

山城社長:

当社の人事制度は、十数年前、つくったものをほぼそのまま運用してきましたが、定年延長する企業が増えてきた時代の流れと、社内で定年間近となる社員が増えてきたことに対応して、3年ほど前に定年を60歳から65歳に変更しました。その際に、役職定年の制度などは定めていなかったため、60歳を超えた社員にそれまでと同じ仕事をしてもらうのか、給与はどうするのか、といった課題が残っていました。組織として人材の新陳代謝が必要である一方で、長年勤務し貢献してくれた社員にも、本人の希望に寄り添って最後まで活躍していただきたい、その両立はできるのかと悩んでいました。

東栄3.

 

髙橋課長:

定年延長前から、そうした課題に対応しなければと考えており、新たな制度導入には数年がかりの準備が必要だと認識していました。しかし、当社に合うような参考事例などの情報も不足しており、どこから着手すべきか分からないまま、具体的な対応策を打てずにいました。

 

「後進育成」に主眼を置く役職定年

佐藤プロ:

はじめに、役職定年制の導入を検討されているとお聞きした時には、近年では役職定年を廃止する会社も増えており、時代に逆行するのでは、と感じました。
役職定年制を設ける場合、多くの企業では、該当者の給与コストの抑制が主目的になりがちです。しかし、そのような観点で制度を作ってしまうと、役職定年者は給与が下げられてやる気をなくし、職場に沈滞ムードがまん延したり、長年培ってきた経験やノウハウが引き継がれなかったりして、給与コストは削減できたとしても、それが会社を良くしていくことに結びつかない場合があります。

東栄4.

 

山城社長:

当社では、希望者には定年後も嘱託職員として働いてもらっていました。それは、長く働きたい社員の意向を尊重の上ではありますが、そうしたベテラン社員が長年培ってきた技術やノウハウの継承は、以前からの課題でした。今回の役職定年制の導入は、給与コスト削減というより、社員の技術やノウハウを次世代に継承する仕組みとしたいと考えていました。

 

佐藤プロ:

そうした山城社長や髙橋課長の思いをよくよくお聞きしていく中で、役職定年制をうまく運用できるのであれば、会社全体にとって課題解決につながる取り組みになるのでは、と考えました。60歳を過ぎても、やりがいを持って納得して働いていただける制度であれば、コスト削減以上の効果が生まれるはずです。役職定年から定年退職までの期間に、貴重なノウハウをいかに継承し後進の育成ができるか、その「つなぎ」の役割を重視した制度作りを一緒に進めました。

東栄5.

 

髙橋課長:

今回の支援を受けて導入した役職定年制の大きなポイントは、役職定年後の業務内容を、60~62歳と63~64歳の二期に分けたことです。前半の3年間は、基本的にはそれまでの所属で仕事を続けてもらい、後半の2年間は所属を解いて、会社全体を見てもらいます。長年培ったノウハウや顧客との関係を引き継ぐなど後進の育成にあたってもらい、会社への貢献度と仕事の充実感を高めてもらえると考えています。

 

山城社長:

これまでも自分たちなりにいろいろ考えてきたつもりでしたが、佐藤さんに時代の変化や働く人の視点を踏まえた制度の考え方を教授いただき、目を見開かされた思いでした。

東栄6.

 

給与の下げ幅をカバー

髙橋課長:

役職定年後の給与は、職責に合わせて二段階に分けて減額する規定としました。佐藤さんからのアドバイスをいただきながら社内で何度も議論を重ねて、何とかここに落ち着いたという感じです。

 

佐藤プロ:

一般的には、一定の年齢に到達した社員の役職を解くから役職定年制なのであって、給与から役職手当が外れます。しかし東栄科学産業さんの規定では、給与に占める役職手当の割合が相対的に大きく、これを役職定年ですべて外してしまうと、給与の下げ幅が大きすぎて現実的ではありませんでした。

 

山城社長:

上位役職者ほど給与が大きく下がり、これまで会社のために、と思って頑張ってきたのに、「何だったんだ」と落胆させてしまいますから。

東栄7.

 

佐藤プロ:

一般的には、管理職だった社員が役職定年で一般職になる場合、役職手当は外れます。この役職手当がなくなった時の給与の減額幅を、既存の給与体系の中でどう調整するのか、今回はかなり悩まれましたよね。

 

髙橋課長:

実は、今回のプロジェクトで、コンサルタント支援が入ると聞いた時は、私の勝手な思い込みですが、コンサルタントの方から一方的にセオリーを押し付けられるものだと警戒していまして…(笑)。特に、役職定年の給与規定を相談することは、正直なところ気が進まなかったです。

 

佐藤プロ:

今回見直しした給与規定では、役職定年後の社員が一般職になるため、管理職の時になかった残業代を固定残業手当として支給することで、役職手当がなくなることによる給与の下がり幅を軽減することにしました。実際に職責も変わるので、給与とのバランスも悪くありません。

 

髙橋課長:

佐藤さんはこちらからの意見に真剣に耳を傾け、一般的な制度の考え方と、当社の実情とうまく折り合いがつけられるよう、根気強く議論に付き合ってくださり、私が持っていたコンサルタントのイメージがガラリと変わりました。最終的には、社員に自信を持って説明できる制度ができたと思います。

 

佐藤プロ:

会社として、役職定年制は単に給与を下げることが目的ではなく、ベテラン社員の培ってきた技術やノウハウを、次の世代に継承していくことを目的としていることを、しっかり伝えていくことが重要です。

 

髙橋課長:

役職定年で管理職から外れると、そのポストには誰か他の社員が就きます。その際に、これまで管理職を務めてきた人が、新しく管理職となった社員をサポートしてもらう意味も含めた給与設定としていますので、納得感も感じてもらえると思いますし、他の社員に対しても説明がつきます。

 

多様化する人生設計に沿う選択定年制

髙橋課長:

今回の制度改正のポイントはもう一つあります。役職定年制に加えて、選択定年制も導入しました。

 

山城社長:

私は、この選択定年制の導入にはかねてより、「社員に早く辞めてくれ」というメッセージに受け取られかねないと懸念しており、導入には消極的でした。

 

髙橋課長:

そこで、まずは社員にインタビューすることにしました。60歳前の複数の社員に選択定年制に関する意見を聞いてみたところ、「いい制度だと思うよ」「65歳より早く辞めることも考えていたから…」という意見もありました。これは社員にとってメリットのある制度だと思い、60歳、63歳、65歳の3パターンから定年を選択できる制度にしました。

東栄8.

 

佐藤プロ:

企業で定年を延長すると、長く働けると喜ぶ人もいますが、「早く辞めるつもりだったのに…」という人も一定数います。その意味では導入するタイミングもちょうどいい。家庭の事情や自身の健康状態、第二の人生の計画など、多様化するニーズに選択肢を用意することは、社員満足度を向上させる取り組みです。

 

髙橋課長:

会社都合の定年ではなく、一人ひとりの人生設計に沿って定年を選べることは、働く側にとっても魅力的な制度になると思います。

 

組織力向上につながる人事制度の取り組み

山城社長:

今回の取り組みでは役職定年・選択定年制を導入しましたが、組織の活性化を図るためには、当然、採用の強化も併せて考えていかなければなりません。これは今後の課題です。

 

佐藤プロ:

人材確保や採用の面でも、役職定年や選択定年制などの制度が整備されていることはプラスに作用します。単にコスト削減ではなく、ベテラン社員が次世代を育成する制度として「当社では若い世代の成長支援をしっかり行っています」というメッセージになります。実際に、ベテラン社員の知識ノウハウやネットワークを、いかに次世代へ引き継げるかは、会社にとって大変重要な課題ですから、その体制を整備する意味でも、人事制度の見直しは組織力アップにつながります。

東栄9.

 

髙橋課長:

今回の制度の中で、役職定年から定年までの間の役割として、業務引継書を作成してもらうことにしました。これまでは、社員によってそれぞれ引継ぎの方法が異なっていましたが、今後は、これまで培ってきた業務の知識やノウハウ、顧客情報などに加えて、組織運営などマネジメント面のノウハウの継承もしっかりと行ってもらう予定です。

 

山城社長:

この業界は顧客が担当者につくことが多いので、担当者が退職すればその担当していた顧客も失いかねません。業務引継書を作成し、実際に顧客の引継ぎまでしっかりサポートしてもらい、社員のノウハウやネットワークを会社に残してもらうことは重要です。
今回導入する制度は、新年度から運用を始めます。社員にとってはすぐ効果が実感できるものではないかもしれませんが、中長期的に会社組織の強化につながるものと考えています。

 

佐藤プロ:

社員にとっては、自分の給与や人生に関わることですから、制度導入当初は、当然不満が出てくると思いますが、制度をしっかり運用していく姿勢は崩さないでいただきたい。大切なのは、十分な検討を重ねて、会社を良くするために根拠があって導入した制度であることを、しっかり伝えていくことです。5年、10年経てば、組織に根付いた制度になっていくはずです。

 

山城社長:

今回のプロジェクトを通して、これまでの当社の歩みや、社に貢献してくれた社員の想いなどを再認識し、今後の組織のあり方を考えていく上で、たくさんの気づきを得られました。佐藤さんの支援がなければ短期間でここまでの成果を得られなかったと思います。人事制度は、時代の変化だけでなく、企業の持続的に成長に合わせたものに変えていかなければなりませんから、これからも真剣に取り組みを続けていきます。

東栄10.

(令和6年2月取材)

 

他の事例は事例紹介のページよりご覧ください。

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